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170
ライティングの哲学
実用書や自己啓発本の感想はあまり書かないようにしています。2023年8月の『Kindle Unlimitedで本を読もうキャンペーン』 は特別枠として、一冊一冊に言及していたらキリがないし正直面倒なので……。でもこの本はべらぼうに面白かったので、メモも兼ねて感想を書きます。
「楽にブログの文章を書けるようになりたい」。そのヒントを探して手に取りました。もうね~、がんばりたくないの私は!楽になりたくて、軽くなりたくて、技法書や自己啓発を読み漁ってるの!だからこの本にも、そういった救いを求めて手に取りました。
が、やはりそんな銀の弾などなく。というかこの本はそれを求め、足掻き、藻掻く人たちがただ対談しただけの本。銀の弾はなかったけれど、だからこそ逆に私の求めていた情報が沢山散りばめられていました。暇つぶしで読むんじゃなくてフツーに時間作って読んじゃったもんなー!文章術のハウツーとしての面よりも、エッセイや読み物として面白かったです。
「諦めること」への言及が多く、中年期に差し掛かっている自分には深く刺さりました。ヒトとしての成熟が「自分はきっと何者かになれるはず」と無根拠に信じていなければやってられない思春期を抜け出し「自分は確かに何者にもなれないのだ」という事実を受け入れる事から始まるように(地に足のついた努力はここから始まる)、書き手として立つことは「自分はいつかすばらしい何かを書く(書ける)はず」という妄執から覚め、「これはまったく満足いくものではないが、私は今ここでこの文章を最後まで書くのだ」と引きうけることから始まる。
― 断念の文章術 P137
刺してくる刃物が鋭利すぎるんだよ~!執筆だけではなく、全ての活動に当てはめられる名文だと思います。「もっと、もっと」という幼児性を諦めて、今のあるがままを曝け出す事しか『完成』はないよ。文章を、さては絵を楽にかけなくしているのは自分自身の心であり、テクニックとかそういうところではないんだろうなぁということを深く感じました。
また「原稿は書けないのに何故Twitterへは連投出来るのか」という話題でも、「諦めること」へ繋がっていてなるほど、と。連投しやすい理由のまずひとつは140字という制限(まあこれは今ではそうじゃないんですが)。そしてふたつめが、オーディエンスがいる事への取返しのつかなさ。人に読まれてしまった、少なくとも何人かの人に読まれてしまったという事実は、消えるといえば消えるので本当に取り返しがつかないと思わなくていいんだけど、まあまあ取り返しがつかない。
― 座談会その1 挫折と苦しみの執筆論 P109
いやほんと、自分だけが抱えてると永遠に手直し出来るから「もっと、もっと」ってなっちゃって無駄にこねこねしちゃうんですよね……これは自分の漫画に対して言っているんですが。もう何年も言ってるもの「仕上げをすると“もっといいものが出来るかも”という期待が霧散してモチベーションが落ちる」って。それを『幼児性』とバッサリ切られるのは中々に心地が良いものですな。
上のように、自分が普段言っていた事と同じような話が出て来ると少し安心します。できれば生活リズムを一定にし、疎かになりがちな食事、運動、休憩を意識的にとって気分転換し、コーヒーや煙草といった個人的ルーティンのなかでログを確認し、また、今日もまた、どんなに晴れていても、指先が凍りつくように寒くても、ニュースがなにを言おうとも、外でなにが起こっていても、この画面に向かう ――スポーツあるいは修行、としての執筆。身体と習慣としての執筆。
― 書くことはその中間にある P175
「漫画を毎日描きたかったら毎日描くしかない」、これよ。作る、という作業は苦しみをともなうこと。なんていうか、祈りや怒りだと思うんだ、表現する事って。だから自己の状態によってのったりのれなかったりするんだけど、そういうのを脇にそっと置いて、とにかくやるっていうのが大事なんだな、と。
豊富な知識を持つ人生の先輩たちですら、創作エンジョイ勢の私と同じような悩みを抱えている事にとにかく親近感を覚えます。やれない、やりたくない、でもやるしかない。だってそうしないと心がおさまらないんだから。
そう、私は『心』でさまざまなものを落としているんですが。著者の中でも同じようなスタンスの方がいて、その方の悩みが凄く腑に落ちました。
構成を作ると、感情が消える。
いやこれほんとに!本当にそう!でも感情と勢いに任せて偶然が発生する事を願うと、それはそれで破綻するし!むずかしーなー!【BLEACH】の久保帯人先生が言うところの『ライブ感』って本当に大切な事だと思う。風呂敷を(綺麗じゃなくても)畳めるなら、構成は二の次にした方が感情がでる、のる。この本で言うところの「禍々しさ」「混沌さん」。こと表現の世界では、秩序こそが正しさではないんだろう。――でもまぁ、多少の秩序はないと読みづらくて他人に届かないんだけど。むずかしーなー。
いやーほんと良い本だったな……。論文や小説を書く人には私よりも得るものがあるのではないだろうか。おすすめです!
ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論
(千葉 雅也、山内 朋樹、読書猿、瀬下 翔太)
#自己啓発

