No.
157
望月の烏

『名前を言ってはいけないあの人』が存在するので、アニメ勢に配慮して本文を隠します。



あせびこわ。

「皆さん、わたくしの息子のためにこうしてお集まり下さり、本当にどうもありがとう。どういう結果になろうとも、わたくしは皆さんのことを我が娘のように想っております」

背中がゾワゾワする~~!砕けた敬語を使って親しみを覚えさせるやつだよコレ~~~~!!ただひたすらに、あせびの事が怖い。『信用出来ない語り手』って、こちら側(読み手)に深い傷を残しますね……。あせびの何もかもが信用出来ないので、彼女が口を開くたびに「こ、この女……!」という感情が湧き上がっていました。今作中に馬脚を現す事が無かったのは残念なような、今後が楽しみなような!『大紫の前』が彼女のゴールなんだろうか……。今後も登場するたびに「あせび~~~!!」って叫びそうです。いやぁ良いキャラクターだな彼女。好きだわ。

【望月の烏】は、【烏に単は似合わない】と【烏は主を選ばない】を良い感じに合体させた作品になっていて、どこか懐かしさを覚えながら読み進めました。2日で読んじゃったよね楽しすぎて……。連日夜更かしをしてしまった。
とはいえ妃選びは形だけのもので結果が決まった出来レース。誰を選ぶのか、というワクワク感や女同士の熾烈なバトルはない。前回とはまるで違う様子が、逆に興味を惹かれました。貴族の結婚なんて今も昔も『政治』である事には変わりなく、それでも自由度が多少あったのが前回。対して今回はあまりにも酷い。姫たちもそれを知っているがゆえ、生気が感じられないのが可哀想でした。……ただ一人を除いては。

鶴が音の頭でっかち委員長っぽさがすごーい!!!

その、異性に相手にされてはしゃいでるのが『年相応』でことさらに浮きますね……。ほんとなんかゴメンなんだけど、他人との血でこういう事言うのアレなんだけど、雪哉が大事にしてる北家からこういう子が来るのがなんか、なんかーーー!「自我が強い」という言葉が似合う子だ。
七夕の節句で、山吹が鶴が音を非難したシーンはスカっとしました。暴走特急を諌めるには羞恥心を与えるしかないからな……。いわゆる『スカッとジャパン』みたいなシナリオにカタルシスを覚えると癖になるので嫌なんですが、やっぱり「思うところがある」相手がこうやって成敗(?)されるのは気持ちが良くなっちゃいますね。今回の登殿の儀、共通の敵をひとり作って残りが団結する図式になってるのがねちっこくて眉間にシワが寄ってしまうんですが、そうすると表立ってのトラブルは抑えられるから悲しいものです。女の集団を上手く運用するのに理に適っている。


そして私、明留が死んだ事を記憶の彼方にぶっ飛ばしてました。ああーーーそうだったーーー……そうだよ……。明留がいたら雪哉は今のあの感じじゃないよ……。シゲさん………明留……。
雪斎は雪斎であって、もう雪哉ではないんだろうなぁ。終章に居ただけだもんね、雪哉。けれども、

「私があの子を見間違うはずがない」

の言葉に、もう、ほんとに、……ああ!あーーー!スッと言葉が出てこないよ。しんどいなぁ。はじめて澄生を見た時にどう思ったんだろうか。ここからまた【追憶の烏】を読むとまた違う味わいが楽しめそうです。
他作品の話を引き合いに出すのですが、雪斎の必要悪ムーブがどことなく『ゼロ レイクイエム』を思い出させるので、それに似た形で物語が幕引きされる事がないように祈っています。「死んで欲しくない」というよりは「私の予想を上回る物語を出して欲しい」という欲です。


カバー裏の概要を読んだ際、金烏代が美女にうつつを抜かして儀式が荒れる……といった話になるのかと思っていました。だから凪彦の第一印象は良くなかったんですが、それはもういい子で!!超ビックリよ!!両親がアレでソレなのによくもまぁ……ここまで純朴な子に……。やはり血よりも環境なのか。

「ああ、すまない。そなたの忠心は宗家ではなく、兄上へのものであったか」

これをサラッと言えるの本当に凄いと思う。おもわず一瞬呆けてしまった。凪彦の事が一気に好きになったし、この子が語る言葉を信じようって思えました。なんというか、分かりやすく『主人公』ですよね、彼。澄生こと紫苑の宮を主人公にすると「強い」がゆえに読んでいて疲れる事になりそうです。凪彦は「弱い」がゆえに応援したくなるし、今後伸びしろしかない。次も彼目線の話が読みたいなぁと思いました。
もろもろの事件が形的に終息"させられた"時に雪斎の部屋に殴り込みに行くのが格好良かった!漢を見せたね……!そして操り人形の木偶に話しかける雪斎の、なんて冷たいことか。いやこれが雪哉だって分かってるんですけど……。雪哉こういうヤツですけど……。

そして「ここからもう打つ手はないのか」と打ちひしがれていた時に蛍からのアプローチですよ!!!
いやーホント気持ち良かった!びっくりした!!まさかそこに伏兵が潜んでいようとは!だって今回で登殿した姫たちに強い自我を感じていなかったもの。あ、鶴が音さんはちょっと強すぎるんで抑えてもろて良い?……いやこれ、鶴が音の強さがいい隠れ蓑になってるんだな……やるじゃん……君は雪斎派閥だけども。
話を戻して。まさか姫を起点に新たな希望のバトンが繋がるとは思っていませんでした。この作品の女子たちって御家の事で手一杯で、マクロな視点がとれていない子が多いように思います。仕方ないよね、戦国時代の姫みたいなもんだもん。女は添え物、政治の道具。だから四姫の中から謀反に似た事をする女子が出るのにビックリ仰天で!やるじゃん!!「やれる事をやろう」という小さくとも大きな決意。その芽が育つ事を祈っています。


さて。台風の目、こと澄生ですが。

紫苑の宮って気付いてませんでした!!!!!!

私は素直なので!!ますほさんちの長女ならまあこれくらい……なるかな……?と思っていました!!外界の知識が濃すぎるのはちょっと引っかかったけども。そもそもとして最初から答えが出てたのよね。「奈月彦にそっくり」って。いやますほさんの長女なら……ね…………イトコだし…ね!
短編・烏百花の【きんかんをにる】で奈月彦が感じていた「政治は自分よりも得意」であるという予想。あれはこの展開のための匂わせだったのか、と……。立ち回りという広義の『政治』ね。人心掌握を心得ている。
話は少しそれますが、短編の回収として腑に落ちた事があります。今作を読んで【あきのあやぎぬ】に対してモニャモニャ~っとしていた気持ちに納得がいきました。『山内』に対して博陸候 雪斎がやっている事を『家』という単位に縮小して書いたのがあの小話だったんだなあ。
寵愛対象であるうちは幸せである──。まさに、と。いやぁ、短編を読んで感想を残し、そのままの熱量で【望月の烏】に挑んで良かった。超良かった。とても楽しい。

話を紫苑の宮に戻して。彼女が言っている事ってまさに『理想論』なのだけども、耳を傾けたくなるカリスマ性があるなぁと感じます。前しか見ていないからかな。それにいいじゃない、青くて。若者が謳ってこそよ。それと行動の節々で雪哉に対する甘えを感じさせるのが好きです。

雪さんなら分かっているはずだし、やれるはずなのに何故そうしないのか。

そういった感情を二人の討論から感じました。可愛いじゃないの。
見ている方向は一緒なれど、道が交わる事は決してない。ここでもう、明確に別れてしまった。けれど、『雪哉』と『紫苑の宮』として二人が言葉を交わす日を夢見てしまいます。

次回は凪彦メインで長束さま登場でしょうか。
【烏の緑羽】の印象はまだ残っているんですが【楽園の烏】【追憶の烏】の記憶が薄れてきたので、ここで一度復習をしておきたいところですな。……買うか、文庫サイズも!!
畳む



20240416191404-motiri.jpg望月の烏 /八咫烏シリーズ
(阿部智里)

#阿部智里 #八咫烏シリーズ

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