No.
191
皇后の碧


八咫烏シリーズを手掛ける阿部智里先生による新作読み切りファンタジーです。ハードカバーの本は買い控えないとなぁと思っていたんですが、ついね……惹かれてしまってね……。いや、惹かれたというよりはアレだなあ。

「また後宮モノなの!?!?」っていう興味。

だって八咫烏シリーズの始まりが後宮モノじゃん。またその手で来るのかっていうことに驚きがあって。それと「引き出し少なくない?」というネガティブな感情を持っていたところも多いにある。
でも同じものを煮詰めただけで新刊が出せるほどに世界は甘くないことは分かっている。だからこその面白さを確信して手を出しました。結果はご覧の通りです。


後宮モノって不思議ですね。きわめて局地的な鳥籠の中の話なのに、本人にとっては「後宮の敷地と価値観が己の全て」だから規模のスケールがグッと上がる。世界にとっては取るに足らない出来事でも、後宮の中では大事になる、なってしまう。良い題材だなと今作を読んで思いました。
あと読み手目線で言うと覚える事が少なくて済むのが良いですね。国と国でのああだこうだがメイン軸になると世界と用語を覚えるだけで手いっぱいなので。覚えたらめっぽう楽しくなるのは分かっているが!

今作で一番助かったのはアレです。登場人物の名前が簡素!覚えやすい!助かる!!横文字、ムズカシイ!
蜻蛉の精霊シリウス!炎の精霊フレイア!水の精霊ティア!
なんと分かりやすいことか……。
一方、主人公の名前がモロに日本人名だったのは違和感が少し強かったです。ナオミ。有名人を連想してしまって、挿絵にあった黒髪の少女が頭に残らなかったのが悲しい。ハナとかマイとかだったら別だったのかなー。名づけって難しいもんだ。


元素的なものから精霊と称する命が生まれるファンタジーな世界は寓話的で、文字だけで起こすとメルヘンな優しい色を想像してしまうのですが。初っ端からまあ、こう、ねちねちでしたね!種族の特質に合わせた価値観の違いや抗争に「まあそれはそう」と納得しながら読んでいました。火の一族と水の一族が仲良しこよしなわけないんだよなあ!生まれが違えば価値観も違うわけで、そこのあたりのモヤモヤはなかったです。どっちが正しいとか考えなくていい、どっちも正しい。
そんな世界観なのに、ナオミが足を踏み入れた後宮では全てが調和している。
その謎を探るのがとてもワクワクしました。ほら、前述で「生まれが違えば価値観も違う」って言っちゃうような頭カチカチ山なので私……。


主人公のナオミが頑張り屋さんなのも好感度が高かったです。第一の好感度上げ上げポイントはココ。

女官に戻りたいと伝えても、蜻蛉帝はきっと怒りはしない。その代わりに、先ほどのようにナオミに接してくれることは二度とないだろうし、興味を失ったような顔で自分を見返すであろうことを想像すると、そんなふうにがっかりされたくない、と思ってしまった。

好意の種、良い。
結果としてこの種は別の方向に花開く事になるんだけども、〝相手にがっかりされたくない〟という想いから関心が始まるのってなんか可愛らしくて胸がときめきました。いやーここの文章と感情すごい好きだなー。

登場人物みんながそれぞれに矜持や野心を持って行動していることにも心を惹かれました。お人形さんがいない。……おるけど、おるんだけども。
一番気持ちが盛り上がった場面は最終局面でナオミがフレイアを呼ぶところです。契約とは信頼関係である、という言葉も良かった。いいよねあそこ~……伏線回収するのは分かりきってたけど、すごくドラマティックだった。
だがしかし盛り上がりが連続する最終局面に至るまでの尺が若干長い……!阿部先生の小説ってスロースタートな気がするでホンマ。前も話したけど私は【烏に単は似合わない】自体は刺さってなくて、友人に乞われて【烏は主を選ばない】まで読んでやっと「おもしろい!」ってなったから。
あと最後の『皇后』呼びも精読しないと頭にクエッションマークが大量に浮かんだままですね。ふんわりとした理解のままにエピローグを読み若干の座りの悪さを感じていたんですが、他の方のレビューを見てようやく得心しました。もうちょっと、もうちょっと繰り返し言って欲しいぜ、「皇后」というモノに対する登場人物たちの価値観を……!

ページをめくる手がとまらない、という作品ではないものの、ちゃんと心に残る世界でした。なんならシリーズ化してくれてもいいのよ、と思っている。いや、風呂敷全部畳んだんだけどさあ!この世界観を1回ポッキリなのちょっともったいない気がする~。炎の精霊と水の精霊にフォーカス充てたりしようよ~!おもしろかったです!

追記:っていうかうわー!公式サイトのロード画面めちゃくちゃいい!読み終えてから噛みしめられるやつ!

20250725115015-motiri.jpg皇后の碧
(阿部智里)

#阿部智里

編集

この場所について

読んだ本の感想を話すところ。
感情でものを言う傾向があります。

ネタバレ注意!


キャラの生死、思わぬキャラの登場等はぼかしたり隠したりしていますが、基本的には配慮していません。

デザインの着せ替えが出来ます。お好みの背景色でご利用下さい。

ダークモード
デフォルトモード

最近の投稿

複合検索

  • 投稿者名:
  • 投稿年月:
  • #タグ:
  • カテゴリ:
  • 出力順序:

カテゴリ

ハッシュタグ