【2022】読んだ小説あれこれ【ふんわり】

そろそろ八咫烏シリーズの感想を書かねばなるまいて、と思い記憶を掘り返しての読書感想文です。伊坂幸太郎さんの二作、ちゃんと好きなんだけどいかんせん読んだのが一年近く前だから感想が淡泊になってしまった。無念。あと感想を書いていて思ったのが、自分は「分かる / 分からない」で物事をジャッジする悪癖があるな、という事に気が付きました。もう全然自覚なかったわこのクセ……。「分かる~~~~~!」って言葉を多用している事は理解していましたが。自分の思っている事をはっきり文章に残しておくって大事だなあ。今回の感想、モロに上記のクセが出ているのでそこも注目して頂ければと……へへへ…。

私の悪癖、自力で気が付いた訳ではなく下記の記事を読んで気が付いたクセだったりします。

よく言っている「初見の悲鳴は気持ちがいい」というやつですが、まさか『走れメロス』の感想でそれを味わう事になるとは思っていなかった。こんなにも楽しそうに本を読む人がいるんだ……って。2P目のシークバーの豆粒さに一瞬気圧されましたが、あっという間に記事を読んでしまいました。みくのしんさんの豊かな感性がピックアップされている内容ですが、彼を見守っているかまどさんの適度に相槌を打ちツッコミをする温度感も記事の読みやすさに寄与しているなあと。ツッコミ役って大事よね。
記事中で好きな言葉は多々あるんですが、中でも衝撃を受けたのは下記も一文です。

 俺はメロスでありながらも王でありセリヌンティウスだし、フィロストラトスでもあれば、村の老爺の時もある。

― みくのしんの読書感想文

雷に打たれたような感覚を久々に味わいました。なんかこう……物語を読む上で色んな事を忘れていたな……って。私は登場人物を「分かる / 分からない」でジャッジしてしまっていて、自分とは完全に別個体で読んでしまっているんですね。だからこの言葉を聞いた時、自分は「消化する / 理解する」為に物語を読んでいるなって気付かされて、悔しさがこみ上げてきました。読書に正しさや間違いはないけれど、私もみくのしんさんみたいに純粋に物語を楽しんで読みたいな。インターネット、こうやって他人の考えに触れて、それが自分の一部になっていく所が大好きだよ。この読書感想文は一生忘れないと思う。


2022年は小説を全然読んでいないのですが、実用書系はちょっとだけ読んでいるのでそちらの扱いをどうしよかなと考え中です。「大切なのは練習や勉強だけじゃない! 絵が上手くなる5つの習慣 | 焼まゆる」「YOUR TIME ユア・タイム: 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術 | 鈴木 祐 」あたりはインターネットお絵描きマンにおすすめしたい感じだし年末に実用書系もまとめようかな~。………ゲーム、ゲームのまとめもやるって言ってるね!?2022年にやったゲームのまとめね!そっち優先ね!はい。

アイネクライネナハトムジーク(伊坂幸太郎)

恋愛が主題の連作。現代が舞台の恋愛って嗜まない事が多いのですが、今作は甘酸っぱい気持ちをあちこちから色んなシチュエーションで摂取出来て楽しめました。食わず嫌いはダメね。

支流が海に繋がる伊坂幸太郎節全開の最終話はお見事ではあるのですが、時系列があっちゃこっちゃいくのが少しだけ読みづらかったです。お話はすっごく綺麗に繋がっているんだけども、何年前を連発されると頭こんがらがってしまう~。
誰かの頑張りが別の誰かに時を越えて繋がる。ささやかな一手が大きな一手だったりもして。人との繋がりを信じ、大事にしたくなるお話でした。

 

逆ソクラテス(伊坂幸太郎)

最後の話ぼろくそに泣いてしまってダメ~~~~~~~。

小学生たちが理不尽を強いてくる大人や価値観に立ち向かう連作。主人公が子供なので、いささか感情移入がし辛いのと他力本願の「スカッとJA〇AN」系な展開がいくつかあり、not for me 寄りの作品になるかと思いながら読み進めていました。でも最初から所々でキチンと胸を刺してくるんですよね……大人になってからのほろ苦さとか、矯正のし難さとか。

「そうだよ、永遠。バスケの最後の一分が永遠なんだから、俺たちの人生の残りは、あんたのだって、余裕で、永遠だよ」

―アンスポーツマンライク

最初の丁寧な仕込みがのちに爆発するタイプの話だったな……ってアンスポーツマンライクを読んで感じ、そこからの逆ワシントンのラストで涙腺ガバガバのハイドロポンプよ。幼いころの失敗は大人になっても引きずる、っていうのをちゃんと描写した上でのチャレンジしようぜ、リトライしようぜ、というメッセージにとても励まされる。あと、他人に優しくするのは自分のため、って価値観も好きです。優しさの連鎖が返ってきて欲しいわけじゃなくて、何をしてくるか分からない他人が怖い、って事から発した言葉なので猶更実感がこもっているというか。
頑張りが必ずしも報われるなんて、都合がいいお話ではあるのだけれど。紙の上でくらい、全員がハッピーでもいいんじゃないでしょうか。

 

追憶の烏(岡部智里)

前作までの間に何があったのか分かるけど分からねェ……!そんな感じです。加えて衝撃のラストに全部気持ちを持っていかれたので、間の出来事への印象が割とすっぱ抜けている。あのラストに驚かない人はいないでしょう……露ほども思い浮かばない再登場だったよ……!

若宮の心変わりというか、件の遺言に雪哉の思いと同じく一瞬だけ「なんで!?」と思ったのだけど、すぐ腑に落ちた、のち感傷的な気持ちになった。家族を得た事で、”金烏”から”ただの奈月彦”になったんだなあと。……いやもしかしたら山内を考えての事かもしれないけれど!今のところ私はこう考えています。だから、金烏に仕えていた雪哉が浜木綿さんと袂を分かつのは至極真っ当な事で。ただ、理解は出来るが感情が追い付かない……!分かるけど分からねェ!紫苑の宮は何を思っているんだい!憎悪の英才教育を受けたのか!?

改革には痛みを伴うもの。現実の歴史でも存分に語られていますが、その痛みは先の合戦で既に終わっていると思っていました。猿や神といった”外敵”と一致団結して戦う事によって、分裂の危機を乗り越えたと勝手に感じていた。しかしまーーーーーそんなはずはないのよねえ!!敵がいなくなったら新しく敵を作るだけ……というサイクル、日常生活でも心当たりがありすぎてしまう。奈月彦、いかんせん有能な身内に甘くて一度でも敵/無能と認定した者にめちゃんこキツイな、と思っていましたが、きっと同じ事を色んな所で色んな人が思っていたんでしょうね。だって私『烏に単は似合わない』の奈月彦めちゃくちゃ嫌いだもん。なんやねんコイツ!って感じでした。彼の少し深い所に入らないと、彼の気持ちは全然全くサッパリ分からない。そして分からない存在は、こわい。大人たちと女の憎悪が上手い事噛み合って奈月彦の暗殺が成功してしまったわけですが、その背景には割と納得の気持ちでいます。繰り返すけど最初奈月彦嫌いやってん!!その感情を思い出すだけで、四家の方々の気持ちと彼女の気持ちがちょっと分かるのよ……。しかし納得はしているけれど、だからといって死んでもいい訳ではない。奈月彦に限らず誰でもそう。そこの辺り、胸がモヤモヤします。これも『追憶の烏』における「分かるけど分からねェ……!」の要素だなあ……。

『楽園の烏』に至る雪哉の行動は全部納得しかなかったのだけど、奈月彦の気持ちだけは推察するしか出来なくて本当の所が凄く気になる。語られる日が来るのだろうか。語られたら、私の心は誰に傾くのだろうか。
それにしても雪哉、ずーーーーーーっと行動がブレない。家族が大事だから山内が大事。その山内を大事に想っている金烏である奈月彦が大事。いや、奈月彦個人の事もきっと大切に思っていたと思う。ただそれ以上に、金烏としての彼に焦がれていただけで。心の中に柱がキチッとあるキャラは、一見意外とも思える行動をしてもちゃんと理由が分かるから良いですね。

っていうかあせび~~~~~~!!

あせび!!お前!!!退場したはずでは!!すごいなあこの女!!!自分が成り上がるために何もかもを道具にする系の女!!すごい!!
あせびの凄い所は、機が熟すまでの種まきをせっせとして怠らない所です。『烏に単は似合わない』でも仕込みを存分に行っている事は描写されていました。その下地がある故に、最高のタイミングで最悪の花を咲かせられるように潜伏していたんだな……と急な再登場に納得するしかない。すごい女だよ……お前人狼ゲーム得意だろ……感情で吊り逃れ出来るタイプの狼だよ……いっそ見習いたいぜ……。

 

烏の緑羽(岡部智里)

「分かるけど分からねェ……!」が解消されるかと思ったら、フォーカスされた先が長束さまだったので色んな事が分からないままっていう~~~~!『楽園の烏』の感想でも言及したのですが、今回も読書エンジンがかかるのが遅くて前半は休み休み読んでいました。しかし中盤になってからは何もかもが気になってきて、就寝時間を1時間半もオーバーした形で一気に読了してしまい。八咫烏シリーズ、最初のパンチが本当に弱いんだけど、前半の出来事が遅効性の毒みたいに一気に巡り始めるから凄いなあと思います。いやだってこのタイミングで路近の話聞きたい人とかいる!?!?おらんやろ!!けれど、長束さまと路近周辺を掘り下げる事によって、山内の裏の部分とかの世界観がこれでもかと感じる事が出来たので、必要な内容だったなぁと考え直しました。というか、雪哉一人に肩入れせずに済む。

『烏の緑羽』は長束さまのオムツがいかにしてとれたか、というのをメインテーマにしているようで全然そうじゃなくて、山内のいびつさを改めて叩きつけたかった+サブの登場人物について掘り下げる事で、雪哉と対立している面々への共感力を上げたかったのかなって。そもそもとしてタイトルが……だし!『追憶の烏』で雪哉の心境だけ知っている状態で、いかにして『楽園の烏』に至ったかが描かれたら、大多数の読者が雪哉の選択が正しいと思ってしまっていたと思います。前作主人公だしね。長束さまと緑寛が掘り下げられた事によって、ああいう環境で育ってきて、その上での信条があるから雪哉と対立したんだな、という納得力が上がったというか。ネット上の争いごとでもそうですが、片方の事情だけしか知らないとかフェアではありませんからね……。両者の下地をしっかりと読み込めた事で、これから先に何が起きたとしても片方に過剰に肩入れせずに済むのは助かります。とくにわたし、めちゃくちゃ感情で物を言うので!分からないものは怖いの精神なので!


「お前――このためか」
その顔を見た瞬間、これまでどうしても分からなかったことが、ようやく分かった。
「このために、私に仕えてきたのだな」

―第六章 翠寛

ここからの流れ、パズルのピースがカチッとはまって脳汁がぶわーーーっっと出る感じが堪らなくて大好きです。しびれた。
緑羽視点で路近の過去を追ったものの、追えば追うほど意味が分からない存在で霧は濃くなっていくばかりで。早い話がサイコパスですよね彼……。精神疾患をバシッと決め打ちしていうの、物語上の登場人物とはいえちょっと憚られるな~~!路近自身が望んでそうなったのではなくて、生まれ持った気質だからなおのこと。
それはさておき。理由が理解出来たからといって、それを心で咀嚼出来るかどうかは別だな、と路近を見て感じました。先のように”納得力”という言葉を私はよく使いますが、彼の事は分かったけれどその心の在り方に納得は出来ないというか。霧は晴れども、そこには沼が広がっていてこれ以上は追えなかった。そんな感じです。これを側における長束さまは凄い人だよ……すごいよ……。奈月彦を全肯定するだけの人だと思っていたら、今巻で一気に深みが増したなあ。なんせ私、

雪哉の主どこ行った!?!?奈月彦だけじゃなくて浜木綿もいないし私の大好きなますほさんもいないし更には澄尾すらいないんだが……?いないんだが…?どういう事なの…なんなの…全く分かんない…作者さんがこの混乱を狙っている事だけは分かるんだけど。ますほさんとか澄尾いるとなんかちょっと安心するから長束の方出すのがまたいい塩梅だわ…。その長束様もよう分かんないとこにいるしさあ。

【2020】最近読んだ本あれこれ【12月】 / 楽園の烏 感想より

って『楽園の烏』の感想で言うてるから!!長束さま出てきても全然安心感ないって半ばディスってるから!!ごめんね!!しかし公式でバブちゃん判定が出た事により、この時感じた私の長束さま評は間違ってなかったんだな、って。

次巻はようやく浜木綿さん視点が来るのでしょうか。正義の反対は悪ではなく別の正義、というのを痛い程描いている第二部。登場人物の行く末というミクロ視点も気になりますが、八咫烏の未来というマクロ視点でも続きが気になっています。栄えなくてもいい、穏やかな未来がありますように。